犬の百科事典
あ行
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犬のトレーニングに関する用語や道具、動物行動学に関する用語をまとめた「犬の百科事典」です。専門学校などで愛玩動物看護師むけに講義を行ったり、教科書を執筆している講師が学術的な定義を基に、客観的かつ端的にまとめてありますのでご活用下さい。
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オペラント条件付けでは、三項随伴性と呼ばれる「弁別刺激-反応-結果」の関係性を学習し、反応した結果によって再び同一の弁別刺激を受けた際に学習した反応の頻度が変化する。オペラントは行動を操作するオペレーション(operration)に由来する用語で、犬のトレーニングでは、行動のコントロールをする際にオペラント条件付けが用いらる。オペラント条件付けは、反応した結果の種類によって、「正の強化」、「負の強化」、「正の罰」、「負の罰」に分類される。
執筆者:鹿野正顕(学術博士)、長谷川成志(学術博士)、岡本雄太(学術博士)、三井翔平(学術博士)、鈴木拓真CPDTーKA
アイコンタクト
動物の個体同士が目と目を合わせるで交わす非言語コミュニケーション方法の一つ。犬のコミュニケーションにおいて、時に互いの目が合うことは威嚇を表し、敵対行動として作用するので、人が犬の目をじっと見つめるのは注意が必要である。その一方で、犬が人の目を見つめる行動は愛着行動として作用し、人の養育行動を引き出すことが生物学的な絆の形成として科学的に明らかとなっている。ドッグトレーニングにおいては、犬が指示を正確に聞く際にハンドラーへ注目することが重要視されるが、その指標の一つとしてアイコンタクトが用いられる事がある。ただし、指示を実行するためにはあくまでハンドラーへの注意を向けることが重要であり、必ずしも目が合わないといけないということはない。愛着(あいちゃく)
個体間の情緒的な結びつきのこと。人の場合、育児をしてもらう相手とされる側との間で相互的に形成される感情のこと。養育欲を満たしてくれる身近な動物に対しても、同様な愛着が形成される。人・犬間においては、視線が愛着行動として作用し、オキシトシンを介することで異種間において初めて生物学的絆を形成するとして発表された。関連コラム:話題の幸せホルモン「オキシトシン」は、どんなときに分泌されるのか?
アジリティ
ドッグスポーツとして行われる犬の障害物競走のこと。ハードルやスラロームなど多数の障害物がある。体高によってクラス分けされ、実施団体により使用する障害物の規格が違う。犬の本能的な運動欲求を満たすことのできるドッグスポーツの一つである。遊び攻撃行動(あそびこうげきこうどう)
遊戯行動中におこる吠える、うなる、歯をあてるといった攻撃行動。子犬期の他の犬との遊びや、飼い主との遊びの中で適切な経験をできなかったことにより、適切な遊び方を学習していないケースもある。遊び中のうなり声と他の攻撃行動による威嚇や攻撃前に行ううなり声は明確に区別でき、トーンや持続時間に注意すべきであるが、一般の飼い主にはわかりづらい場合があるので専門家による教育が必要である。穴掘り(あなほり)
地面に四肢やマズルを使い穴を掘る行動。ひっかいて印をつける、何かを埋めるなどもこれに当たる。正常な行動として犬の行動レパートリーに含まれているものの、飼育環境によっては問題行動として認識される。家の中で眠たいのに眠れない時など、土などの掘れる地面がないのにもかかわらず、真空行動として表出するケースもある。αシンドローム(あるふぁしんどろーむ)
獣医学、動物行動学において科学的根拠・定義のない用語。体系的な学問に基づいて行われる行動治療・修正の現場では使われない。飼い主と犬の順位が逆転し犬が群れのボスやリーダーになった状態、いわゆる上下関係の崩壊により、指示に従わなかったり、気にいらないことに対し噛む、うなるなどの問題行動を見せる状態として書籍等で紹介される事が多いが、現在ではそもそも犬が人と順位を競い合うという考え自体が科学的に否定されている。関連コラム:「主従関係を超えた”仲間”になることで人も犬もハッピーに、心から健やかになれる」
アルファロール
人と犬の上下関係(そもそも犬は人間に対して上下関係を求めるという説は科学的に否定されている)を明確にさせるために、犬の態勢を仰向けにして押さえ込み服従させる方法として行われている。近年では、この手法は、力づくで押さえ込むことで犬に恐怖心を抱かせて委縮させ、しつけや問題行動を修正する方法として認識されており、もともと仰向けにされてお腹を触られることが苦手な犬に対して、無理やり触られることで恐怖心から自分の身を守ろうとして、犬の攻撃行動(吠える、噛みつくなど)を引き起こす問題に発展する危険性がある。関連コラム:犬のしつけ都市伝説 ~犬を仰向けにして服従させないといけないのか?
威嚇(いかく)
自分の資源や身を守るために示す自らの力を誇示する行為。犬の場合、背中の毛を立たせ、自分を大きく見せるような前傾姿勢や、吠える、唸る、歯むき出すといった行動を伴う。鋳型法(いがたほう)
物理的に目的の行動を取らせて、新しい行動を獲得する手法。例えば、犬の腰を押して座る状態にしてから、強化子を与えることで、座る行動を学習させる手法。ただし、体を触る刺激を厳密に一定にしなければ、言葉の合図(「おすわり」など)の学習が円滑に行われないので、注意が必要である。移行期(いこうき)
生後2~3週齢の時期を指す。感覚器が急速に発達し、犬種により誤差はあるものの、離乳しはじめ、目が開き耳が聞こえはじめる時期である。脳の運動野が発達することで運動能力が向上し、新生児期と比べ活発に動きはじめ、兄弟犬と社会的なシグナルを使用しコミュニケーションを取る。古典的条件付け、オペラント条件付けに関する能力もこの頃から身につけはじめる。維持行動(いじこうどう)
摂食や飲水など生命維持不可欠な行動をまとめて維持行動と言う。その内、個体単体で行うものが、摂食行動、飲水行動、休息行動、排泄行動、護身行動、身繕い行動、探索行動、遊戯行動。2個体以上の個体での相互関係によって発現する社会空間行動、敵対行動、親和行動、探査行動、遊戯行動がある。異常行動(いじょうこうどう)
行動の頻度や強度がその動物の正常な状態から逸脱したものを指す。異常行動は常同行動と異常反応に分類される。異常反応(いじょうはんのう)
単純、単調な環境で飼育されることにより刺激に対し無関心、あるいは過剰な反応を示す状態。犬の場合、屋内で飼育し、散歩に出ない生活を送ることで他の犬や様々な物音などに対し過度に恐怖を示したりする。飼い主に正しい知識がなく適切に社会化期を過ごさなかったケースや、散歩もせず劣悪な環境で飼われていたブリーダー放棄犬などで見られる事がある。異食症(いしょくしょう)
食べ物ではないものを摂取すること。(「異嗜症(イシショウ)」とも言う。)幼い動物はさまざまな物質を噛むものであるが、そうしたものを食べてしまうことは滅多にない。人において糊や土壌を食べる行動が、食餌中の栄養が極度に不足した場合に起こることが報告されている。ペットにおける異食の原因はわかっていない。一次条件付け(いちじじょうけんづけ)
古典的条件付けの学習が行われた際、条件刺激が直接、無条件反応を引き起こすように強化(古典的条件付けにおける)されることを一次条件付けと呼ぶ。パブロフの実験では、無条件刺激である餌と中性刺激であるベルの音を対呈示し、ベルの音を聞かせるだけで涎の分泌を直接引き起こすようになったため、ベルの音と唾液分泌は一次条件付けを形成したこととなる。犬のトレーニングでは褒め言葉を教える際、褒め言葉と食べ物を同時に提示する手続きを行い、褒め言葉をかけるだけで犬が喜ぶように条件付けするが、この褒め言葉は無条件刺激である食べ物と直接結びついた条件刺激であるため、褒め言葉は一次条件付けが形成された刺激となる。一次性強化子(いちじせいきょうかし)
生得的に正や負の強化子になるものを一次性強化子と呼ぶ。正の強化における一次性強化子は、動物が本質的に好きなもの(食べ物、飲み物、遊ぶ、散歩に行くなど)といったその動物にとっての快刺激で、負の強化における一次性強化子は、動物が本質的に嫌いなもの(大きな音、嫌な臭い、体罰など)など、その動物にとっての嫌悪刺激となる。別名、無条件性強化子。一次性罰子(いちじせいばっし)
生得的に正や負の罰子になるものを一次性罰子と呼ぶ。正の罰における一次性罰子は、動物が本質的に嫌いなもの(大きな音、嫌な臭い、体罰など)といったその動物にとっての嫌悪刺激で、負の罰における一次性罰子は、動物が本質的に好きなもの(食べ物、飲み物、遊ぶ、散歩に行くなど)など、その動物にとっての快刺激となる。別名:無条件性罰子。犬のしつけ(いぬのしつけ)
人社会で受け入れられる本能的欲求の満たし方を犬に教育すること。人をはじめとした動物は、それぞれの種が生まれつき持つ正常な行動(習性)を表現することで、本能的欲求を満たすことができる。そのため、犬が人社会でストレスなく幸せに暮らしていくためには、犬の習性に配慮し本能的欲求が満たせる飼い方を飼い主が心掛けなければならない。一方、人にとって望ましくない方法で犬が本能的欲求を満たすようになってしまうと、様々な問題行動に発展してしまい、場合によっては犬が人社会で生活することが困難になってしまう場合がある。人と犬が共に幸せに暮らしていくためには、それぞれの飼い主が人社会で犬を飼う上でのモラルやルールを考慮し犬の福祉に配慮しながら、人社会で受け入れられる本能的欲求の満たし方を犬に教育する必要がある。関連コラム:なぜしつけが必要か?日本の現状から考える
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飲水行動(いんすいこうどう)
水を摂取する行動。水を飲む以外に、食物代謝水から水分は得ることができる。水分要求量は、年齢、活動性、温度、湿度、摂食食物、健康状態など、様々な要因によって変化するが、平均的な生活環境で飼育されている成犬の平均1日飲水量は、60~70ml/㎏である。陰性強化法(いんせいきょうかほう)
オペラント条件付けにおける負の強化を中心として行われるトレーニング手法のこと。不快刺激を用いたこの手法は、不快刺激を与えるタイミングや強度の設定が難しいこと、恐怖反応の増大する可能性があること、攻撃性が高まる可能性がある事、犬の体を傷つけてしまう可能性があることなど、さまざまな危険を伴うため推奨されるべきではない。また、動物福祉の観点からも、現在は陰性強化法ではなく陽性強化法を用いたトレーニングが主流となりつつある。隠蔽(いんぺい)
強度が違う2種類の刺激を同時に呈示するような複合条件づけの場合、その刺激に伴う反応がより強い刺激に対して反応するようになる現象。鋭敏化(えいびんか)
無条件刺激を提示し続けることで、無条件反応が増大することを鋭敏化という。一般的に、刺激が強いと鋭敏化が起こりやすく、刺激が弱いと馴化が起こりやすい。特定の音が苦手な犬に、慣らすために大きな音量で特定の音を聞かせ続けると、慣れるどころかさらに恐怖反応が強くなったり、以前より小さな音量でも恐怖反応が見られるようになる。遠隔罰(えんかくばつ)
延滞条件付け(えんたいじょうけんづけ)(古典的条件付けにおける)
順行条件付け(古典的条件付けにおける)の一つで、条件刺激の提示中もしくは提示直後に無条件刺激を提示する方法。一般的に痕跡条件付け(古典的条件付けにおける)よりも延滞条件付けの方が条件反応が強く形成される。尾追い(おおい)
自身の尾を頻繁に追い回す行動。常同行動の一つで、ひどい場合は出血や場合によっては尾を噛み切るケースもある。柴犬やジャックラッセルテリア、ジャーマンシェパード、ブルテリアに好発し、遺伝的な要因との関連が疑われている。オートシェイピング
自動反応形成のことオビディエンス
服従訓練のことを指す。脚側行進(人の横について歩く、走る、止まるなど)、停座(座る)、伏臥(伏せる)、招呼(呼び戻し)などの指示を行い、正確性を競う競技である。日本では、JKC(ジャパンケンネルクラブ)やOPDES(NPO法人犬の総合教育社会化推進機構)などの団体が開催している。オペラント条件付け(おぺらんとじょうけんづけ)
動物が何かしらの行動をした際、結果として生じたことによってその環境への適応的な行動を学習することをオペラント条件付けという。オペラント条件付けの基本的な原理は、アメリカの心理学者ソーンダイク(Edward L. Thorndike)によって提唱され、「効果の法則」と呼ばれていた。その後、アメリカの心理学者「バラス・フレデリック・スキナー」(Burrhus Frederic Skinne)が、ヒトを含む動物の行動をレスポンデントとオペラントに分類し、パブロフの条件反射をレスポンデント条件づけ(古典的条件付け)として、またソーンダイクの試行錯誤学習をオペラント条件づけとして再定式化し、行動分析学を体系化した。オペラント条件付けでは、三項随伴性と呼ばれる「弁別刺激-反応-結果」の関係性を学習し、反応した結果によって再び同一の弁別刺激を受けた際に学習した反応の頻度が変化する。オペラントは行動を操作するオペレーション(operration)に由来する用語で、犬のトレーニングでは、行動のコントロールをする際にオペラント条件付けが用いらる。オペラント条件付けは、反応した結果の種類によって、「正の強化」、「負の強化」、「正の罰」、「負の罰」に分類される。
音響恐怖症(おんきょうきょうふしょう)
雷や花火などの音刺激に対する過剰な恐怖反応。刺激を受容することで突然強い反応が見られ、刺激の回避や逃避、震えるなどの不安を示す行動がが見られる。時には出血しながらもクレートを食い破り刺激から逃れようとするケースもある。防音設備付きのクレートなど、刺激に暴露しないような物理的な対処が解決策となる。執筆者:鹿野正顕(学術博士)、長谷川成志(学術博士)、岡本雄太(学術博士)、三井翔平(学術博士)、鈴木拓真CPDTーKA