犬の百科事典
さ行
さ行
犬のトレーニングに関する用語や道具、動物行動学に関する用語をまとめた「犬の百科事典」です。専門学校などで愛玩動物看護師むけに講義を行ったり、教科書を執筆している講師が学術的な定義を基に、客観的かつ端的にまとめてありますのでご活用下さい。
サークルの中に、クレートやベッド、トイレを入れることが多く、ケージよりも大きいことが特徴である。サークルは犬専用の生活スペースとして用いられる。
関連コラム:犬のしつけ都市伝説 ~犬と一緒に寝るのはしつけの面では良くないのか?~
関連コラム:人も犬も一緒?「子犬の保育園」の4つのメリットとは
関連コラム:ワクチンが終了するまでの社会化トレーニング
関連コラム:社会化期だけじゃない、犬の成長に大切な「若齢期」を知っていますか?
関連コラム:社会化期だけじゃない、犬の成長に大切な「若齢期」を知っていますか?
関連コラム:犬の困った行動をなくすには根気が必要!その科学的な理由
それぞれの動物種によって生まれながらに持っている特異的な行動レパートリーがあり、イヌの新生子期では母イヌの乳首に触れることで乳首を吸う(吸啜反応)が発現したり、移行期などで母イヌが離乳食を子イヌに与える際に、子イヌが母イヌの口先を舐めると吐き戻しが誘発されるなど特定の行動が発現される。
執筆者:鹿野正顕(学術博士)、長谷川成志(学術博士)、岡本雄太(学術博士)、三井翔平(学術博士)、鈴木拓真CPDTーKA
サークル
サークルはケージと異なり側面のみ、または側面と床のみ囲まれたハウス。 ケージと同じようにステンレスの細いポールで作られているものが多い。通気性が良く、犬の様子がわかりやすい。基本的に屋根がないものが多いが現在は屋根付きのものも販売されている。持ち運びは基本的にできない。サークルの中に、クレートやベッド、トイレを入れることが多く、ケージよりも大きいことが特徴である。サークルは犬専用の生活スペースとして用いられる。
三項随伴性(さんこうずいはんせい)
オペラント条件付けの(先行)刺激→反応→結果の三項目が、お互いに従属関係にあることをいう。例えば、「オスワリ」の合図(弁別刺激)で座り(反応し)、ご褒美(結果)が得られる関係性のこと。一方、「おいで」の合図で犬が飼い主の元に来て、ご褒美がもらえる三項随伴性が成立したの後、報酬(ご褒美)の代わりに爪切りなど嫌な結果を得てしまうと、同じ弁別刺激に異なる結果が伴う事になり、呼び戻しがしにくくなる。サンダーシャツ
伸縮性の犬用ウェアで、アメリカの動物学者テンプル・グランディンが牛などの家畜にワクチン接種する際に家畜を保定するために使用していた締め付け機をヒントに開発された。適度な圧力で犬の体を包むことで精神的な不安や恐怖、過剰な興奮を和らげることが出来る。サンダーシャツは、日常の生活の中で落ち着いている状態の時に着用し、シャツを着ていることで落ち着いた心理状況を維持できるように条件づけをすることで、実際の雷などの刺激で不安や恐怖反応が発現する前に着用し、普段よりも刺激に対して過剰に反応せずに落ち着いていられるため刺激の馴化の効果も期待できる。シェイクトレーナー
スチール製の円筒状の缶の中に金属の粒が多数入っていて、振ると高い金属音が鳴る。犬の望ましくない行動を減少させるときに罰子として用いる道具。事前に音が鳴ると報酬がなくなること(二次的負の罰子として)を学習させてからの使用が本来の使い方である。金属音に敏感な個体にとっては恐怖反応を引き起こすので使用する際には注意が必要。ジェントリング
動物がリラックスした状態で、体の各部位を触らせてくれること。犬の場合、飼い主だけでなく、他人にも触られることに馴らすことで、動物病院での診察が受けやすくなるなど、多くのメリットがある。刺激性制御(しげきせいせいぎょ)(オペラント条件付けにおける)
特定の刺激によって行動が生じたり、生じる行動の種類が変わることを刺激性制御という。オペラント条件付けでは、三項随伴性と呼ばれる「弁別刺激-反応-結果」の関係性を学習し、反応した結果によって再び同一の弁別刺激を受けた際に学習した反応の頻度が変化するが、ある弁別刺激のもとでは動物が反応し、それ以外の刺激では反応しない場合、弁別刺激が反応を制御しているため刺激性抑制という。犬のトレーニングで“お座り”という言葉を弁別刺激で座るように学習させた場合、“伏せ”という言葉では座らなければ刺激性制御が生じている。刺激性制御(しげきせいせいぎょ)(古典的条件付けにおける)
特定の刺激によって行動が生じたり、生じる行動の種類が変わることを刺激性制御という。古典的条件付けでは、行動を生じさせない中性刺激が学習することによって条件刺激となり条件反応を生じさせるようになるが、このときの条件反応は、条件刺激が与えられた時だけに見られ、条件刺激が与えられない時は反応が見られない。刺激性制御には、2つの正反対の般化と弁別の過程が関係している。刺激特定性(しげきとくていせい)
馴化は学習した刺激に対して特定的であり、馴化した刺激には反応を示さなくても他の刺激には反応を示す。これを刺激特定性という。犬も特定の男性に慣れても、他の男性には恐怖心を示すことがある。特に人より五感の優れている犬は、慣れた相手に似たような人であっても、その違いを明確に区別するため、馴化をさせるためには非常に根気が必要となる。刺激般化(しげきはんか)
刺激特定性はあるものの、馴化の練習を行っていくうちに似たような刺激にも慣れることを刺激般化という。犬も特定の男性に慣らすことで似たような容姿の男性にも慣れることがあるが、五感の優れている犬は人に比べ般化が起こりにくい。試行錯誤(しこうさくご)
エドワード・L・ソーンダイク(Thorndike, E. L)が発見した動物の学習の基本原理。動物は課題を解決するまでに様々な反応を試み、失敗を重ねるうちに解決に至る行動様式を選択する。試行錯誤学習は、課題で起こる、刺激と反応は、快刺激が与えられる場合は刺激に対する反応は強くなり、不快刺激が与えられる場合は刺激に対する反応を弱めるといったように、オペラント条件付けの元になっている学習理論である。自己主張性攻撃行動(じこしゅちょうせいこうげきこうどう)
犬が自らの主張を通すために示す攻撃行動。主に負の強化によって身につける。以前は犬が人間を含めた家族の中でボスになろうと試みるために攻撃行動がおこるとされ、これらは優位性攻撃行動、αシンドロームと言った用語が使用されていた。しかしながら、そもそも犬は人間に対し上下関係、優劣を求めないことが明らかとなってきたため、誤解を招く優位性攻撃行動、αシンドロームといった用語は使われなくなり、代わりに自己主張性攻撃行動という用語が用いられるようになっている。関連コラム:犬のしつけ都市伝説 ~犬と一緒に寝るのはしつけの面では良くないのか?~
失宜行動(しつぎこうどう)
失宜行動は、葛藤行動と異常行動に区別される。欲求不満や葛藤、ストレスなどが原因となり発現する行動。葛藤行動とは心の中に相反する動機、感情などが2つ以上同時に存在する場合に示す行動。また異常行動とは、行動の頻度や強度、様子が正常から逸脱したものを指す。自動反応形成(じどうはんのうけいせい)
誘発法を用いた反応形成の一手法で、古典的条件付けの手続きを用いるもの。例えば、犬に何かの対象物に近づくという行動の反応形成を行う場合、その対象物(中性刺激)を提示すると同時、もしくは直後におやつ(無条件刺激)を与えるとこで、その対象物が陽性感情を呼び起こす条件性刺激となる。次に、対象物が呈示された時に、犬がその対象物に少し近いたタイミングにおやつが与えられると、近づく行動が強化されることになる。つまり、無条件刺激であったおやつは、結果的に近づく行動の強化子となる。しかし、この手法はあくまで古典的条件付けの手続きを行うため、仮に犬が対象物から離れても同じ手続きを繰り返すことになる。つまり、意図的な行動の強化や消去は行わないことも、自動反応形成の特徴と言える。シトロネラカラー
スプレーカラーの一種で、犬が吠えると装置に仕込まれているシトロネラというハーブの液体が犬の顔にスプレー状になって噴射される。犬にとって嫌悪刺激となる匂い、噴射音を与えることで無駄吠えなどの問題行動を修正する際に用いられる。使用方法を誤ると、嫌悪刺激に馴れてしまったり、逆にスプレーの刺激に対して過剰な恐怖反応を起こすこともあるので、使用する際には犬の行動評価を適切に実施することが必要である。自発的回復(じはつてきかいふく)(オペラント条件付けにおける)
消去(オペラント条件付けにおける)を行ない反応しなくなった後、弁別刺激を提示すると反応を示すこと。例えば、人を見る(弁別刺激)と要求吠え(反応)をして、相手にしてもらう経験(正の強化子)をしてきた犬に消去を行う。つまり要求吠えに対して相手にしない対応をしたことで要求吠えが減ったとしても、後日、人を見た時に要求吠えの反応が見られることを自発的回復という。自発的回復(じはつてきかいふく)(古典的条件付けにおける)
古典的条件付けで消去の手続きを行い、条件刺激によって条件反応が生じなくなったとしても、時間が経過すると条件刺激によって条件反応が生じる。このような消去を行っても再び条件反応が生じることを自発的回復という。褒め言葉とご褒美を条件付けした後、消去の手続きを行うと褒め言葉をかけられるだけでは徐々に嬉しい感情が生じなくなるが、時間が経過した後に褒め言葉だけをかけると嬉しい感情が生じる。自発的回復は、消去の手続きを繰り返すことで徐々に小さくなっていく。自発的回復(じはつてきかいふく)(馴化における)
馴化を行い、無条件刺激によって無件反応が生じなくなったとしても、時間が経過すると無条件刺激によって無条件反応が生じる。このような馴化を行っても再び無条件反応が生じることを自発的回復という。一度慣れた音にも、しばらく時間が経ってから聞かせると再び恐怖反応を示すことがある。自発的回復は、馴化の練習の間隔が長くなるほど大きくなるため、馴化を行う際は練習の間隔を開けずに継続して行う必要がある。社会化(しゃかいか)
犬が人社会で共存するために、社会性を身につけること。例えば、パピークラスやパピーパーティーで経験するような、様々な環境刺激に対する馴化や、さらに出かけた先々でトレーニングを行い、犬が適切な振る舞いができるようにすることも含まれる。関連コラム:人も犬も一緒?「子犬の保育園」の4つのメリットとは
関連コラム:ワクチンが終了するまでの社会化トレーニング
社会化期(しゃかいかき)
主に3~12週の時期を指すが犬種や個体によっても差がある。五感、運動神経が発達し、様々な事象に対し好奇心を持つ時期である。新規刺激に対し恐怖心、警戒心がないまたは低い時期であり、子犬が人や犬、物事、場所などに対し愛着を形成する、適切な振る舞いを身につけるのに適した期間である。この時期に適切な経験をしていなければ、将来、同様の状況下に置かれた場合に適切な行動が取れない問題が生じる可能性が高いため、早期母子分離はこの時期に母親や同腹犬から適切な学習ができないことが問題になる。関連コラム:社会化期だけじゃない、犬の成長に大切な「若齢期」を知っていますか?
社会空間行動(しゃかいくうかんこうどう)
各個体が互いに特定の距離をおいて位置する行動。もしくは個体が特定の場所に位置する行動。犬では他の犬や人などと一定の距離を保とうとするが、その距離は個体によって異なる。マーキングによって自分の縄張りに匂い付けをする行動がこれに含まれ、特に雄犬によくみられる。一般的に、マーキングは屋外で見られることが多いが、室内でも見られ、新しいものを導入したり、他の動物などを飼い始めたりすることで、頻度が高まることがあるとされている。社会行動(しゃかいこうどう)
複数の個体が関係することによって発現される行動。維持行動(社会空間行動、敵対行動、親和行動、探査行動、遊戯行動)、生殖行動(性行動、母子行動)、失宜行動(葛藤行動、異常行動)に分類される。社会的促進(しゃかいてきそくしん)
他個体の行動を観察することにより個体の行動の動機づけのレベルが高くなる現象。他の個体の行動を観察することで、同様の新しい行動を獲得する「モデリング法(模倣学習)」と混同されること多いが、社会的促進はあくまで動機づけに作用するものであり、新しい行動を獲得するわけではないため、動物行動学では区別されている。子犬の場合、複数の個体に同時に餌を与えると、個々で与えられた時よりも摂食量は増加し、このような摂食行動の社会的促進効果は犬でよく知られている。社会罰(しゃかいばつ)
オペラント条件づけにおいて他個体(飼い主や他の犬など)との社会的な関わりを断つことによって与える負の罰のこと。もちろん他個体との関係が強化子となる場合でないと機能しない。犬のしつけにおいてはタイムアウト法として用いられる。ジャックポット
特定の条件反応を効率的に引き起こさせるため、与える強化子の量を増やす、より好むものを与えるなどする手法。正の強化でトレーニングしている際、ジャックポットを使うことで、特定の反応をより顕著に増加させることが可能である。若齢期(じゃくれいき)
社会化期が終了してから性成熟するまでの期間のこと。上限は、6ヵ月~12ヵ月齢と幅広く、犬種や個体によって差がある。社会化期を適切に過ごし、人や犬、物事、場所などに対し愛着を形成したとしても、若齢期の経験が乏しく、適切な社会的強化が行われなければ、愛着をもった対象でも恐怖心をいだくようになることもある。したがって、若齢期は「第2の社会化期」ともいわれ、社会化期に次いで人と共に生活するために必要な経験を学習させる重要な時期とされている。関連コラム:社会化期だけじゃない、犬の成長に大切な「若齢期」を知っていますか?
習得的行動(しゅうとくてきこうどう)
生後の経験や学習によって獲得した行動のこと。受動的服従(じゅどうてきふくじゅう)
犬が自分に向けられる攻撃や威嚇などの敵対行動に対し、争いを避けたり、攻撃の緩和などのため、受動的に敵意がないことを示す行動。仰向けに寝転がり、尾を巻き込んで腹を見せる姿勢を維持する。服従性の排尿を伴うこともある。馴化(じゅんか)
無条件刺激を提示し続けることで、無条件反応が減少することを馴化(慣れ)という。犬が雷の音を初めて聞いた際に驚いても、何度か聞くうちに雷の音を聞いても反応しなくなった場合、子の犬は雷の音に馴化したことになる。順行連鎖(じゅんこうれんさ)
反応連鎖を、一連の反応順に結びつかせること。例えば、『冷蔵庫からペットボトルを取ってくる』反応連鎖を行う場合、まずは冷蔵庫に行くことから教え(a)、次に冷蔵庫を開ける(b)、ペットボトルを口にくわえる(c)、冷蔵庫を閉める(d)、そしてペットボトルをハンドラーに持って行く(e)、という一連の流れを初めの反応からa→b→c→d→eと学習させていくこと。そしてこれは、1つ1つの反応つながりであって、逐次接近法ではない。順行条件付け(じゅんこうじょうけんづけ)(古典的条件付けによる)
条件刺激の後に無条件刺激を提示する方法を順行条件付けという。犬のトレーニングで褒め言葉の「いいこ」を教える際、順行条件付けを用いて強化するときは、「いいこ」と声をかけてから食べ物を与える。順行条件付けはさらに、延滞条件付けと痕跡条件付けに分けられるが、条件付けの中で最も条件反応が大きく効果が高い。消去(しょうきょ)(オペラント条件付けにおける)
弁別刺激を与え、反応を示した後に強化子を与えない手続きを続け、次第に反応の頻度が減っていく過程のことをいう。動物は、『反応と強化子の間に関係性がない』ということを学習するが、既に覚えている弁別刺激→反応→強化子の学習を忘れるわけではない(自発的回復(オペラント条件付けにおける)を参照)。消去(しょうきょ)(古典的条件付けにおける)(古典的条件付けと忘却)
条件刺激によって条件反応が生じるようになっても、条件刺激を提示してから無条件刺激の提示をしないことを続けると、条件刺激を提示したさいの条件反応が弱まるが、このような過程を消去と呼ぶ。褒め言葉の後にご褒美を与えると、褒め言葉をかけるだけでご褒美をもらった時と同じような嬉しい感情が働くようになるが、その後、褒め言葉をかけるだけでご褒美を与え続けないと、褒め言葉をかけられるだけでは徐々に嬉しい感情は弱まってくる。しかし、消去を行えば完全に忘れてしまうわけではなく、あくまでも反応が弱まるわけで学習したことを忘却するわけではない。消去抵抗(しょうきょていこう)
条件づけされた反応は強化される刺激がなくなるとすぐに反応が消失されるわけではなく、徐々に発現頻度が低下していくが、強化スケジュールや頻度によって消去されるまでの時間は長くなる。特に部分強化で条件づけされた反応に関しては、消去抵抗性は強くなり消去されにくい。消去バースト(しょうきょばーすと)(オペラント条件付けにおける)
消去(オペラント条件付けにおける)手続きの最中、反応の頻度が減っていく一方で突然反応が激しくなること。例えば、犬の要求吠えに対して無視をする消去手続きを行っている際、吠える頻度が減っているのに、急に吠えが激しくなるこという。ここで、相手にしてしまうと、次からは同じぐらい激しく吠えるようになってしまうので、消去を行う場合には自発的回復(オペラント条件付けにおける)及びこの消去バーストの予備知識が必要となる。消去バースト(しょうきょばーすと)(古典的条件付けにおける)
自発的回復が生じる際に、以前の反応よりも強く反応が生じてしまうことを消去バーストという。消去バーストは、条件刺激の後に無条件刺激が提示されていたにも関わらず、条件刺激のあとに無条件刺激が生じなくなったフラストレーションによって引き起こされると考えられる。飼い主の外出に不安を感じる犬は、飼い主が外出の際に持つ鍵の音が条件刺激となって不安を感じるように学習するが、飼い主が鍵を持っても外出しないといった消去(古典的条件付けにおける)の手続きを行うと、徐々に鍵の音には反応を示さなくなる。しかし、消去の手続きの際に反応が弱まっても、消去 (古典的条件付けにおける)バーストが生じ以前よりいったん反応が強くなることがある。関連コラム:犬の困った行動をなくすには根気が必要!その科学的な理由
条件刺激(じょうけんしげき)
中性刺激が学習によって特定の反応(条件反応)を引き起こすようになった場合、特定の反応(条件反応)を引き起こす中性刺激は条件刺激となる。犬のトレーニングでは、「褒め言葉」、「クリッカー」などが条件刺激である。条件性強化子(じょうけんせいきょうかし)
一次性強化子と対提示された中性刺激が、同時条件付けによって一次性強化子と同等に働くようになった場合、その中性刺激は条件性強化子となる。トレーニングで用いられるほめ言葉やクリッカーは、初めは犬にとって中性刺激だが、餌やおもちゃなどの一次性強化子と対提示することによって条件性強化子となるため、正の強化を用いる際に快刺激として利用できるようになる。また、インターホンで吠えるようになった犬は、たまたま吠えた際にいなくなった嫌悪刺激である来客(一次性強化子)と古典的条件付けで結びついた般性強化子である。このように、一次性強化子に直接結びついた条件性強化子を二次性強化子と呼ぶ。さらに、二次性強化子と対提示された中性刺激が、二次性強化子と同等に働くようになることもあり、この場合、二次性強化子に直接結びついた条件性強化子を三次性強化子と呼ぶ。条件付けの時間的関係(じょうけんづけのじかんてきかんけい)(古典的条件付けにおける)
条件付けを効率よく形成するためには条件刺激と無条件刺激の時間的な関係が重要となる。条件刺激と無条件刺激の提示する順番によって、条件付けの方法は順行条件付け、同時条件付け、逆行条件付けに分けられる。条件反応(じょうけんはんのう)
無条件反応が学習によって特定の刺激(条件刺激)によって引き起こされるようになった場合、特定の刺激によって引き起こされる無条件反応は条件反応という。常同行動(じょうどうこうどう)
失宜行動の異常行動に分類される目的や機能がない反復した行動のこと。ストレス下や葛藤状態で観察され、刺激が少ない制限された、また不適切な環境で飼育されることで生じ、転位行動に対し何らかの強化子が作用し定着するとされている。犬では尾追いやフライバイティング(キャッチング)、異嗜、皮膚を舐め続けると言った行動が見られる。常同障害(じょうどうしょうがい)
目的や機能がなく高頻度で長時間続く反復した行動(常同行動)で、飼い主や動物の生活に支障をきたすものをいう。ストレスや葛藤、不安や遺伝等が関与していると考えられ、オピオイド神経系およびドーパミン神経系の神経伝達物質が関与していると考えられている。雌より雄に多く見られるものの決し多い疾患ではない。鑑別診断が必要で、治療には行動治療に詳しい獣医師による薬物療法とともに行動修正を平行して行う。食糞(しょくふん)
異嗜に分類され、その性質上、飼い主に問題行動として認識されやすい。寄生虫感染などとの鑑別診断を要する。また、給餌量や飼育環境を5フリーダムに基づき見直す必要もある。子犬期は遊戯行動、摂食行動として行う事がある。多くの場合、成長とともに排泄回数が減るため、飼い主が糞の処理をしやすくなり犬が糞にアクセスする機会がなくなることで解決するが、糞自体や飼い主の反応などが強化子となり行動が定着してしまう事がある。食物関連性攻撃行動(しょくもつかんれんせいこうげきこうどう)
食物に関連する攻撃行動で、食事中の犬に近づいたり、犬用ガムや食器に近づく片付けるなどすることに対し、唸ったり噛んだりする行動。もちろん犬同士でもおこる。所有性攻撃行動と同様に、人に自覚がなくても犬が食物に関連したものを取られるかもしれないという不安から生じるため、不安を抱かない環境で給餌することが必要である。学習による要因も大きく、過去に満足な食事を取れなかった経験のある犬はこの攻撃が激しい傾向がある。所有性攻撃行動(しょゆうせいこうげきこうどう)
犬自身が所有していると認識しているものに対し、近づいたり、取り上げたりすることで生じる攻撃行動。たとえ人間に犬の所有物を取り上げるという自覚がなくても犬自身がそう感じれば攻撃行動は生じる。おもちゃなどで見られることが多い。守るべき所有物がなければ生じないため、物の管理が重要となる。おもちゃで遊んでいなかったのに片付けようとしたら噛まれる場合もこれに当たる。真空行動(しんくうこうどう)
欲求不満などの葛藤状態において、本来の行動すべき対象がないにも関わらず行動だけが発現すること。犬ではフライバイティング(キャッチング)や凝視といったことが見られる。新生児期(しんせいじき)
生後2週までの時期を指す。一日のほぼ90%を寝て過ごし、自分で排泄することもできず、母犬に全てを依存している。身体的誘導法(しんたいてきゆうどうほう)
目的の行動をさせるために対象の動物を誘導し、新しい行動を獲得する手法。例えば、おやつを持った手を犬の前に出し、その手を犬の鼻先から頭上にあげる(誘導する)ことで犬を座らせ、強化子を与えるトレーニング方法がこれにあたる。犬の場合、動くものを追いかける習性があるため、数あるトレーニング手法(反応形成)の中で一番簡便な手法と言える。親和行動(しんわこうどう)
他個体との共存のため、相手の存在や相手との関係性を確認したり、友好的な関係を築くために見られる行動。犬同士の挨拶(社会探査行動)や遊び(社会遊戯行動)の中で見られるが多い。親和的に挨拶をし、相手の口元をなめたり、傍によって寄り添う光景はよく認められる。母子間における相互グルーミングは親和行動でもあり、母子行動でもある。随意反応(ずいいはんのう)
動物の意思に基づいた反応。様々な刺激を脳で処理し、それに反応するために随意筋を自らの意思で動かすことによりおこる。スプレーカラー
首輪型の無駄吠え防止装置で、イヌの吠え声の振動に装置が反応しイヌが嫌がる匂いのするスプレーが顔に噴射される。吠えたときに出るスプレーの匂い、スプレーの噴射音などが罰子となり吠えを減少させる道具。人が直接罰を与えず遠隔罰として使用できるが、刺激に馴れて効果がなくなってしまったり、逆に刺激が強すぎてパニックを引き起こし不安や恐怖を増強させることもあるので、適切な行動評価を実施してから使用を検討する。スプレータイプ以外でも電気ショックカラーもあるが、火傷をするなど罰の副作用が大きいのでヨーロッパなどの地域では使用を禁止している国もある。刷り込み(すりこみ)
古典的条件付けやオペラント条件付けの強化(オペラント条件付けにおける)を必要としない非常に急速に形成される不可逆的で安定した学習。短い感受期にのみ学習が成立する。インプリンティングとも言う。静止性弁別刺激(せいしせいべんべつしげき)
反応(行動)と結果(報酬)に随伴しない刺激のことを言う。生殖行動(せいしょくこうどう)
子孫を残すための行動で、性行動と母子行動を含む社会行動である。犬が性成熟を迎えるのは、だいたい6ヶ月~10ヶ月であり、大型犬に比べ小型犬の方が早熟である。雌犬は半年に一度、発情を迎える単発情動物動物である。交尾の際は、犬では、射精後に雄の尿道球腺が肥大し、数十分もの間、結合状態が続くという特徴がある。生得的解発機構(せいとくてきかいはつきこう)
動物の生得的な行動が、学習などの影響を受けず特定の鍵刺激によって特定の生得的行動が引き出される機構のこと。それぞれの動物種によって生まれながらに持っている特異的な行動レパートリーがあり、イヌの新生子期では母イヌの乳首に触れることで乳首を吸う(吸啜反応)が発現したり、移行期などで母イヌが離乳食を子イヌに与える際に、子イヌが母イヌの口先を舐めると吐き戻しが誘発されるなど特定の行動が発現される。
生得的行動(せいとくてきこうどう)
生まれながらに動物に備わっている正常な行動。生得的行動は、個体だけで成り立つ「個体行動」と、他個体間で成り立つ「社会行動」に分類される。さらに機能によって分類することもでき、自分自身および子供や仲間の生命、特に生体の恒常性を守るために現す機能をもつ行動を「維持行動」、自らの子供を残す行動を「生殖行動」と分類することができる。生得的行動は、種によってその表現方法が異なるが、その種に特有な生得的行動の性質を習性と呼ぶ。生得的行動が十分に表現できない状況は、その動物にとってストレスとなる。正の強化(せいのきょうか)
動物が何らかの刺激を受けた際、その刺激に対して反応したことで良い結果(快刺激)が与えられれば、再び同じ刺激を受けたい際に同一の反応の頻度が増える。このような学習をオペラント条件付けの「正の強化」と呼ぶ。例えば、「スワレ」といったとき犬がお座りをし、結果として好きな食べ物をもらえれば再び「スワレ」といわれた際にはお座りをする頻度が増える。動物は報酬(良い結果)が得られると、脳の中でのドーパミンが上昇し喜び(快感)が増し意欲が高まるため、正の強化で学習した行動を意欲的に行うようになる。そのため、正の強化を中心としたトレーニング方法をモチベーショントレーニングと呼ぶ。正の強化子(せいのきょうかし)
オペラント条件付けの正の強化で、結果として出現することで反応の頻度を高める快刺激を正の強化子と呼ぶ。「スワレ」といったとき犬がお座りをし、結果として好きな食べ物を与えることでお座りの頻度が増えれば、結果として与えた好きな食べ物は正の強化子となる。正の罰(せいのばつ)
動物が何らかの刺激を受けた際、その刺激に対して反応したことで悪い結果(嫌悪刺激)が与えられれば、再び同じ刺激を受けたい際に同一の反応の頻度が減る。このような学習をオペラント条件付けの「正の罰」と呼ぶ。例えば、犬が他の犬に吠えた際、飼い主に体罰を与えられれば、再び他の犬を見た際に吠える頻度が減る。しかし、強い嫌悪刺激を与えられると、与えた対象に恐怖心を持ってしまい自己防衛のために咬む・吠えるといった行動が増えたり、恐怖のあまり無気力になってしまったりといった副作用が生じてしまうため、嫌悪刺激の使用には最善の注意を払わなければならない。正の罰子(せいのばっし)
オペラント条件付けの正の罰で、結果として出現することで反応の頻度を弱める刺激を正の罰子と呼ぶ。犬が他の犬に吠えた際、飼い主に体罰を与えられたことで、再び他の犬を見ても吠える頻度が減るれば、飼い主による体罰は正の罰子となる。生物学的制約(せいぶつがくてきせいやく)
条件付けにおける連合選択性が、各生物に備わっている生態によって左右されること。例えば、嫌悪刺激の条件付けを行う場合、味覚と胃の不快感は条件付けしやすいが、味覚と電気刺激では条件付けがしにくい。一方で、音刺激と胃の不快感は条件付けしにくいが、音刺激と電気刺激は条件付けがしやすい。この大きな理由は、味覚と胃の不快感は、生物に備わっているため、条件付けが速やかに行われるのである。摂食行動(せっしょくこうどう)
外部から栄養を取り入れるため、食物を摂取する行動。犬は小腸、大腸ともに雑食性の形態を持つが、植物性タンパクよりも肉を好む傾向がある。また、犬の食べ物に対する嗜好性は、子犬時期の摂食経験に強い影響を受けると言われている。狩りの形態から、まれにしか獲物を獲得できなかったであろう犬はガツガツと食べる傾向にあり、必要以上のカロリーを一度に摂取することがある。摂取量は成長段階、活動度、体内代謝、環境などに応じて決まる。全強化(ぜんきょうか)
連続強化のこと先行刺激(せんこうしげき)
反応(行動)に先立つ刺激のこと。刺激には五感で感じる外部刺激の他、体内のホルモン環境の変化による内部刺激も存在する。問題行動修正の際には問題行動を誘発する先行刺激を特定することが必要である。選択淘汰(せんたくとうた)
進化の過程で、その個体の形質や性質などの特徴が子孫に受け継がれていく中で、その特徴の割合が生物群の中で増えたり(選択)、減ったり(淘汰)すること。占有性攻撃行動(せんゆうせいこうげきこうどう)
所有性攻撃行動のこと執筆者:鹿野正顕(学術博士)、長谷川成志(学術博士)、岡本雄太(学術博士)、三井翔平(学術博士)、鈴木拓真CPDTーKA